朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第395回2018/2/11

 現実の世の中では、喜びと悲しみは等分だと思っている。若い頃はそうは思えなかったが、この頃は身のまわりの出来事を、悪い事ばかりではないし、良い事が続くこともないと、とらえるようになってきた。だから、もしも宝くじなど当たろうものなら、それに等しい凶事が起こるはずなので、当たらない方がよいと思う。だからか、当たったことはない。
 喜久雄に、喜びが重なっても、驚くに当たらない。喜久雄は、今までにそれ以上の辛い運命を生きて来たと感じる。だが、これだけ喜びが重なると、この喜びと祝い事も長続きはしないとも感じる。
 俊介に、同時襲名披露の大成功と主演したテレビドラマの大当たりの後、辛いことが待ち受けていたように。