朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第397回2018/2/13

 襲名披露が見事に成功し、源さんへの恩返しもでき、その後のテレビドラマでは歌舞伎以外の場で大評判となった。それでも、俊介には暗い影がつきまっとっていた。俊介の全盛期はそう描かれていた374回感想と思う。

 足を失ってからの俊介が、必死の努力で一歩一歩復活へと歩んでいく様子が描かれていた。だが、それをそのままに受け容れられない何か387回感想が描かれていたと思う。
 
 今回の表現の細部が心に沁みる。

 浴衣姿の俊介が座布団の上で体を崩し、ちょっと足を投げ出します。足といってもすでに義足はとれており、肉の引き攣れた膝が浴衣からちらっと見え、(略)

(略)痛み止めと書かれた薬袋があり、横には飲んだばかりらしいカプセル剤の空き容器が投げ置かれております。

「おっ、俊ぼんも?」
と笑いながら鏡台にあった白髪染めを手にしたのでございます。



 どんなに努力しても、失ったものを、以前のままに取り戻すことはできない。若手の役者としての、男としての全盛期を過ぎた二人の姿が描かれていると感じる。