朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第401回2018/2/17

 恐らく、前回の場面からは年単位の時間が経過しているのであろう。
 喜久雄は、自分の人気と芸を高めるだけでなく、周囲の役者や黒子のことにまで気を配ることができる存在となっていることを感じる。
 俊介については、足を切断するしかなかったであろうが、その後に二通りの予想だ立つ。どちらも、破滅へと向かう姿ではない。
①足がないことを隠さずに、役柄を選び、独特の解釈を加え、白虎でなければできない舞台を創りつつある。
②舞台には二度と立たない決心をする。丹波屋を喜久雄に任せ、俊介自身は世間から身を隠すようにしながら、歌舞伎の研究に没頭した。俊介の歌舞伎への見識がだんだんに認められ、歌舞伎の研究者として、劇評家として、また後進の指導者として、大きな存在になりつつある。

 片足を失った時は、その順調そうな復活の様子を描かれても、逆に不安を感じさせられた。今回は、根拠はないが、むしろ俊介の新たな姿を感じさせられる。