朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第404回2018/2/20

 この小説の山場が近づいてきたように思う。

 喜久雄が万菊の魔力を断ち切るように、隣の俊介に目を向けますと、やはり何かに憑かれたように舞台を凝視しております。
「こんなもん、ただの化け物やで」
 何かから逃れるように、笑い飛ばした喜久雄の言葉に、このとき俊介は次のように応えます。
「たしかに化け物や。そやけど、美しい化け物やで」と。
 実はこの日、二人が目の当たりにした小野川万菊の姿が、のちの二人の人生を大きく狂わせていくことになるのでございますが、当然このときはまだ二人ともそれを知る由もございません。(95回 第四章 大阪二段目 20)