朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第406回2018/2/22

 何かをみているわけでもなく、何かを考えているわけでもないからっぽの体、しかしそのからっぽの底が、そんじょそこらのからっぽの底とは違い、恐ろしく深いことが(略)

 これは、武士という新しい登場人物のことを言っている文章だ。だが、これほど喜久雄のことを表している表現は今までなかったと思う。喜久雄は、運命のままに生きているととらえていた。そこには、他律的で、合理性の無さが感じられた。そして、それは作為の無さと理知を超える大きさにも通じていた。
 損得を計算し、理知で物事を判断する生き方と、対極にある生き方を喜久雄はしてきている。それこそ、「からっぽ」なのだろう。その「からっぽさ」が「恐ろしく深い」のだと思う。それが、喜久雄の魅力の根源だと感じる。