朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第408回2018/2/25 

 場面は、平成の日本であるのに、あまりにも特殊な光景とも言える。喜重が喜久雄の孫であることは間違いないし、綾乃は娘で、横綱大雷は婿だ。ところが、喜久雄には、妻だけとは言いながられっきとした家庭が別にある。
 さらに、妻の父、義父の吾妻千五郎は歌舞伎の名門役者でありながら、喜久雄が名乗っているのは、丹波屋の名跡三代目花井半二郎だ。
 現在の喜久雄に欠けるものはないのだが、このねじれともとらえられることは、今後の喜久雄に影響するように思われる。
 そして、このことはまるで、最期の舞台に立つための準備しているような俊介の存在にも関わるのであろう。