朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第426~429回2018/3/14~3/17・第十八章 孤城落実1~4

 俊介と一豊は、まるで同じ道を歩んでいるようだ。
 人気が出ると遊び歩く、翌日の舞台に差し支えるほど深酒をしてしまう。それを意見されても、反省する様子もない。だが、芸が疎かになっているかというとそうでもない。人気役者としての華やかさはむしろ磨かれているようだ。
 父と息子が似た生き方をするのは、遺伝と環境の類似という要素だけでは、説明しきれないものがある。人は、先祖から伝わる何かに支配されていることが描かれていると思う。

 喜久雄は、実父権五郎と似た生き方をしているのであろうか。それは、まだ分からない。しかし、歌舞伎役者として大御所と見られる位置に来ても、喜久雄には父の極道の気性が継がれているのは間違いなさそうだ。