国宝 あらすじ 第十六章 巨星墜つ 376(2018/1/22)~400回(2/16)

 小野川万菊の通夜が行われた。
 万菊は、俊介の襲名披露公演で姿を見せてからほどなく公けの場に姿を見せなくなった。姿を見せないだけでなく、身内の者も寄せ付けなくなった。
 万菊は、自宅のマンションで一人で暮らし、その部屋はゴミだらけになっていた。三友側がすぐに、マンションを片付けさせ、万菊を無理やり病院に連れていった。病院の検査では、認知症もなく、九十歳にしては健康であった。その直後に、万菊は体一つで出奔してしまった。
 その万菊が亡骸となって発見されたのは、ドヤ街の安旅館の一室であった。なぜ、万菊がこのような場末の安旅館で華やかな歌舞伎役者人生の最期を過ごしたか、その理由は謎である。
 ただ、この宿の同宿者たちの話によると、万菊は、この安宿の部屋で暮らすことに『‥‥ここにゃ美しいもんが一つもないだろ。妙に落ち着くんだよ。なんだか、ほっとすんのよ。もういいんだよって、誰かに、やっと言ってもらえたみいでさ』と、話していたという。
 昼になっても、顔を出さない菊さん(万菊)のことを不審に思った宿の主人が部屋へ行ってみると、万菊は美しく白粉を塗り紅を差した顔で眠っているように見え、体は冷たくなっていた。

 綾乃が、喜久雄を呼び出し、結婚したい相手を紹介する。その相手とは、大関大雷である。さらに、綾乃は子を宿していることも告げ、三代目花井半二郎の娘としてお嫁に行かせてほしいと頼む。
 彰子の勧めもあり、喜久雄は、綾乃の結婚と父親として披露宴に出ることを承諾する。

 喜久雄の『阿古屋』の舞台が開く。
 女形の超難役、阿古屋に三代目花井半二郎がいよいよ挑むとの前評判も高く、初日から連日の大入りとなる。舞台は、観客の反応もよく、劇評も近年にない高評価となる。

 俊介の『女蜘』の舞台は評判となる。それが、きっかけとなり、テレビの連続ドラマ『女蜘』への出演が決まる。これも、今までにないテレビ時代劇として大評判となる。時代の顔となった俊介は、多忙を極める。地方公演の歌舞伎の舞台で、俊介は足をもつれさせ客席へと転げ落ちてしまう。なんとか、その場を取り繕って舞台を終えた俊介は、病院へ運ばれる。
 医師の診断は、重篤な状態で、右足先が壊死している、というものであった。
 東京へ戻って、俊介は、右脚切断の手術を受ける。
 右足を失った俊介は、舞台復帰を目指して、リハビリに懸命に取り組む。

 綾乃と大雷関の大規模な結婚披露宴が行われる。綾乃が嫡出子でないという事実で堅苦しかった会場の雰囲気も、弁天の笑いをまじえた挨拶で変わり、披露宴は感動的なものになった。
 手術後初めての公けの場となる披露宴に、義足をつけて出て来た俊介は、しっかりと自分の足で歩き、喜久雄は元より歌舞伎関係者たちは、彼の復活を信じた。
 
 大雷関の横綱昇進が決まり、綾乃は元気な女の子を産み、その子は喜重(さえ)と名付けられる。

 俊介は、『与話情浮名横櫛(よはなさけうきなのよこぐし)』で、歌舞伎の舞台に復活し、「奇跡の復活劇」「義足の名優」と讃えられる。
 だが、復活を果たした俊介に、病院の検査の結果、左足も壊死していて、切らねばならないという診断が下された。