第十五章 韃靼の夢 第351(2017/12/27)~375(2018/1/21)回 感想

 ずうっと知りたかった春江の生い立ちが、語られた。
 春江の母は、男に左右される生き方しかできなかった。その母に寄生している男に、春江は三歳ころから暴力を振るわれてきた。春江は、この男、松野に恨みしかなかった。
 ここまでは、悲惨ではあるが、珍しい話ではないと思う。しかし、春江が、境遇に負けないところは特徴があると感じる。春江が自分の運命に立ち向かって生きている強靭さが、次の表現から分かる。

 あんた、弱いひとやったわ。いっこも娘のこと助けてくれへんかった。男に甘えて捨てられて、娘に甘えて捨てられて。うちはあんたみたいに絶対ならへんで。‥‥なあ、お母ちゃん、うちがあんたの分の仇もとったるからな。(第十五章 韃靼の夢 9 359回)

 どんな辛い目に遭ってもくじけない春江が、今まで随所で描かれているが、その根底にあるものが伝わってくる。
 また、恨みの対象でしかなかった松野が、廃人となりかけていた俊介を立ち直させる助けになった。こういう運命のめぐり合わせが、印象に残る。

 さらに、謎のままだった喜久雄と春江の出会いの事情も明らかになった。

 (略)小学生のころは生傷が絶えず、「赤チン」というあだ名で、苛め抜かれ、中学になって喜久雄というヤクザの息子と知り合ったことでやっと、自分が呼吸をしていたのだと気づくような、そんな人生だったのでございます。(第十五章 韃靼の夢 8 358回)

 
これで、中学生という年齢でありながら、喜久雄と春江の人生が交錯したことが納得できた。