朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第478~481回2018/5/6~5/10

 死を直前にした辻村の告白。
 告白を聴いたことと告白の中身は、事実だ。

 喜久雄が見ている光景(480回)。
 それは、きれいだが、幻だ。

「小父さん、もうよかよ。綾乃の言う通り、父親ば殺したんは、この俺かもしれん」(481回)
 

 ここには、事実と幻の世界をさ迷う喜久雄の心情がある。
 喜久雄は正気を失っているのかもしれない。しかし、この許しは、喜久雄の真実の言葉だと感じる。喜久雄は、親の敵を許した。

 喜久雄の目に色が戻ったのはそのときでございます。(481回)

 父権五郎の死の事実を知り、同時に、父権五郎の最期を幻の中で見た。
 喜久雄にとって、父権五郎の死の真相も、歌舞伎の世界に昇華されるのであろうか?