朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第487回2018/5/16

 うまいものだ。どこをどう描けば、この竹野のような登場人物を生みだせるのか。
 竹野は、喜久雄に悪辣なことしていた。綾乃の解けることのなかった喜久雄への憎しみも、竹野の画策が原因になっていた。なのに、どこか期待させるものをもつ人物として竹野は描かれていた。

「でも、もうこれでいい。三代目よ、もうこれで十分だろ。おまえはよくやった。本当によくやったよ。この五十年、おまえが戦ってきたその姿、俺だけじゃない、みんな、忘れるもんか」

 あの竹野の胸のうちだけに、いっそう沁みてくる。