朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第488回2018/5/17

 これくらいのことでは、春江は動じない。
 幸子は、我が子を押しのけて二代目半二郎の代役を務めた喜久雄の面倒を見た。喜久雄のことを、この男さえいなければ、俊介が辛い目に遭わなくって済んだはずというのが、幸子の本心だと思う。そんな本心を抑えつけて、市駒の面倒までも見た。それは、丹波屋のためを思ったからだ。
 そんな幸子に、「自慢できる」と言わせた春江だけに、丹波屋のためにテレビで自ら醜態を晒し、それを悪く言われることなど、さほどのことでないはずだ。
 春江が思っていることは、どんなことをしても丹波屋に世間の注目を集めて、一豊、二代目半弥の人気を得ようとしているのだと思う。