小説『国宝』には、何か所かの名台詞がある。私の好きな台詞を挙げていく。

 
初対面の「俊介」と、「喜久雄、徳次」の間が一触即発、乱闘騒ぎになりそうになった。そのとき、「幸子」が言う。

「あー、面倒くさい。どうせ、アンタら、すぐに仲良うなるんやさかい。いらんわ、そんな段取り、でもまあ、しゃーない。喧嘩するんやったら、今日明日でさっさと終わらしといて」(第67回)

 十五六歳の男の子の行動を正確に理解している。さらに、この少年たちのもめ事の解決方法も見事だ。 
 こんな気風のいい母親にはめったにあえない。
 

 「幸子」の台詞をもう一か所。
 喜久雄の子を生む市駒の世話をしている時の言葉。

男なんてどいつもこいつも甲斐性なしで意気地なしのアホばっかりや。でもな、生まれてくる子にはなんの罪もないねん」(160回)
 
 これは、『国宝』の女性登場人物に共通する思いだろう。男は、現実にないものを追い求める存在で、現実の生活では、「いつも甲斐性なしで意気地なしのアホばっかり」なのだ。

 これは、小説の中で具現化されている。そして、この「幸子」の啖呵は、現実世界でも真実だと思う。