「徳次」は、「喜久雄」よりも「俊介」よりも愛着を感じる登場人物だ。
 「徳次」は、仁侠の人として描かれていると思う。信義を重んじ、義のためには命を惜しまない。「徳次」は、「喜久雄」のためなら命を惜しまないといつも言い続けてきた。そして、それを「綾乃」を救う場面で、実行した。
 また、弱い立場の者を助けるということも実行していたからこそ、芸者衆やホステスさんたちに人気があったのであろう。「徳次」は、「喜久雄」に忠義を尽くしながらも、「俊介」にとっての「源吉」のように、完全に従うことはしなかった。
 従者でありながらも、主人から離れ、自分の道を歩んでいる。

 「徳次」は、どんな時代でもその価値を失わない人の生き方の典型として描かれていたと感じた。
 だからこそ、作者は、「白河公司」社長を「徳次」として描きながらも、歌舞伎座に向かう「男」を「徳次」とはついに明示しなかったのだと思う。