新聞連載小説『ひこばえ』重松 清・作 川上和生・画 朝日新聞 第一章 臨月 あらすじ 

 「私」(長谷川 洋一郎)と紺野と佐山は、大学時代からの友人だった。この三人が、顔を合わせたのは『よしお基金』の年次報告会だった。
 『よしお基金』とは、一人息子を亡くした佐山夫妻が起ち上げた基金で、AEDとAEDのトレーニングユニットを中学校や高校に寄付する活動を行っている。一人息子の芳雄くんは、中学校三年のときに、心室細動を起こして学校で突然倒れ、そのまま息を引き取った。学校にはAEDが設置されていたが、級友たちは誰も救命措置を取れなかった。佐山夫妻は、芳雄くんのような悲劇を繰り返してほしくないとこの活動を続けている。

 佐山は最初は公務員だったが、三十歳で税理士の資格を取り、四十歳のときに自分の事務所を起ち上げた。
 紺野は、広告代理店に就職し、その後にいくつかの会社を転職して今に至っている。彼は結婚していないし、子どももいない。彼の両親は八十を過ぎて、二人ともにあまり調子がよくないので、もうすぐ親と同居するのだという。さらに、もう二年経ったら選択定年で会社を辞めるつもりだと話す。
 洋一郎は生命保険会社に就職し、五十歳で関連会社に出向した。いまは、「ハーヴェスト多摩」という有料老人ホームの施設長をしている。彼は結婚しており、子どもが二人いる。娘の美菜は結婚二年目にして懐妊している。子が生まれれば、洋一郎にとって初孫となる。息子の航太は高校の教師をしていて、結婚はしていないので、洋一郎夫婦(妻、夏子)と同居している。
 洋一郎は、息子と娘、娘の夫と向き合って話すときには、いつも微妙なぎこちなさを感じてしまう。

 会合の別れ際に、佐山が、洋一郎に相談があると言った。