新聞連載小説『ひこばえ』重松 清・作 川上和生・画 朝日新聞 二章 旧友の時計 あらすじ

 佐山が、洋一郎が施設長をやっている有料老人ホーム『ハーヴェスト多摩』の見学にやって来た。
 佐山夫妻は、五十代にして老人ホームに入りたいと思っていた。それは、一人息子を亡くしたことに起因していた。
 奥さんの仁美さんは、亡き息子の級友たちが成長する姿を見ることに耐えられなくなった。
 一方、佐山は、息子が級友に見殺しにされたという憎しみを忘れようとするが、どうしても思い出してしまう。
 その結果、仁美さんは、息子が生きていれば同じ年齢くらいの若い人たちを嫌うようになった。佐山は、息子の思い出と重なる子どもを見るのをキツいと感じるようになった。
 そこで、夫妻は、子どもも若者も見なくてすむ老人ホームに早く入りたいと考えたのだった。
 洋一郎は、現実的には五十代で入居すると、すでに入居している人たちとの年齢のギャップを埋めることが難しいことと、前払い金が割高になることを説明した。
 佐山は、洋一郎の説明を聞き、七十代、八十代になるまでは、老人ホームに入ることが非常に難しいことを理解し、早期に老人ホームに入るという気持ちを変えたようであった。

 別れ際に佐山が言った。息子が死んでからの夫妻の時間は、普通の時計ではなくストップウォッチだったと。それは、時間が経過しても、リセットボタンを押せば振り出しに戻る。つまり、時間が経っても、息子の死の時に夫妻の時間が戻ってしまう、と。