新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第84回2018/8/26 朝日新聞

 読者としての私は、姉や洋一郎と同じように、大家さんに苦情を言われないか、また、亡くなった父の遺品や遺骨のことで、面倒なことを言われないか、そんなことばかりを考えていた。
 五十代の洋一郎が老境の父に似ていたのだろうか、死を前にした父はどんな暮らしをしてどんな人々とつきあっていたのだろうか、父は一人ではあったが苦しまずに死を迎えただろうか、そういうことをちっとも思わなかった。
 私も洋一郎も現代に毒されているという気がする。
 大家(川端久子)さんの感覚の豊かさ柔らかさが際立つ。