新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第89回2018/8/31 朝日新聞

 どんな父であっても、父は父だから、遺骨を手元に置くのを断れない。
 母と自分たちを辛い目に遭わせて、別れてからは一度も音信のない父であった。実の父であるからこそ、その遺骨を短い時間でも手元に置くことなど考えられない。
 このどちらに洋一郎は傾くのであろうか。
 姉なら断固、そのまま道明和尚の寺で引き取り手のない遺骨として合祀してほしいと言うであろう。この姉(宏子)を冷たいように感じるかもしれないが、親子であるからこそ憎しみも強いのが人の情の一面だと思う。
 洋一郎が、父の遺骨を手元に置くとなれば、妻と相談せねばならない。今までのストーリーでは、妻(夏子)は父の死も、もちろん生前の父の部屋を洋一郎が見に行くことも知らないことになっている。