新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第90回2018/9/7 朝日新聞

 この小説の時間設定が現実と一致している意味を感じる。それは、『ひこばえ』のおもしさでもあり、つまらなさでもあると感じている。小説としてのつまらなさというのではなく、ああ今はやはりそうなのだなあ、という変に納得できる感覚のつまらなさだ。

 私の住まいの近辺のアパートでも、いわゆる孤独死が実際にある。この大家さんのような立場なら、洋一郎の父のような死に、立ちあわなくてはならないことも増えているのが現実だ。そして、その亡くなった人の縁者が遺骨すら引き取らないのも特別なことではない。
 むしろ、大家の川端久子さんのように借主であった人、孤独死した人を丁寧に葬る方が稀だ。
 
 これは、最近の風潮は嘆かわしいなどとのんびり嘆いている場合ではないと思う。なぜ、こうなったのか、どうすればいいのか、向き合ってみなければならない。