新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第96回2018/9/8 朝日新聞

 洋一郎は和和泉台ハイツを見て、そこで父が晩年を過ごしたことに強い違和感を感じている。

「‥‥‥このアパート、お年寄りには似合わない気がしますけど。(略)」

 ところが、川端さんはそんな洋一郎の考えに、柔らかく、だがはっきりと反論している。

「でも、お年寄りだからといって、萱葺き屋根の古民家に住まなきゃいけないわけでもないでしょう?」

 私は、何回もの入院の経験から、治療の成果は医師の治療と薬剤だけで決まるのではないと感じている。病室の造りや雰囲気、そして看護師さんや栄養士さんやお掃除の方も含めて、その病院のスタッフの方々の仕事の仕方が入院患者にとっては重要だった。
 同様に、終の棲家についても、入居費の高い有料老人ホームのいかにも老人向きの高層建物が快適さにつながるとは思えない。
 高齢であっても現役で働いている人や老境の生活を楽しむ人がどのような住居に住めば快適なのか、川端さんの言葉には考えさせられる。
 もちろん、世代の違う家族と一緒にある程度の広さのある家に住むのがよいであろう。しかし、それは今の世の中では実現は難しい。

 沢木耕太郎作『春に散る』の「チャンプの家」を思い出す。春に散る 感想