新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第98回2018/9/9 朝日新聞

 暮らしの様子がわかる部屋の中だ。高齢の男性の独り住まいとしては、きちんとしている方だと思う。新聞の購読や喫煙の習慣は、いかにも年齢にふさわしい。
 大家の川端さんが、部屋を見てほしいと言うのには何か理由があると予想する。川端さんは、遺品を処分して部屋を空けてください、とは一言も言っていない。また、亡くなった石井信也が姉と洋一郎を置いて出て行ったことと、その後四十年以上一度も会っていない事情も知っている。その上で部屋を見てほしいと言うからには、205号室には別れたままの子どもに関係するものが何かのこされているように思う。