洋一郎は『ハーヴェスト多摩』の施設長なので、高齢者の住まいと暮らしについては熟知している。しかし、洋一郎が知っているのは、家族もいて知人も多い、経済力のある高齢者であろう。
 死んだ実の父は、孤独で経済的にも恵まれない高齢者だ。洋一郎は、自分が管理する施設の入所者と、高齢者向きとは思えないアパートに住んでいた父を比べて考えるであろうか?

 洋一郎は、家族の中で「父親」としての存在感を見いだせないでいる。洋一郎は、義父に「父親」を感じることができなかったようだ。では、死んだ実の父に「父親」を感じることができるであろうか?
 洋一郎は、こいのぼりをかざってくれた父を覚えている。その思い出序章 あらすじの中では、父は子(洋一郎)にとって存在感のある父、すなわち「父親」であったのではないか。
 死んだ父の今まで知らなかった姿が浮かび上がってくれば、洋一郎は自身の思い出の父こそ、「父親」という存在であったことに思い至るのであろうか?