新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第100回2018/9/12 朝日新聞

 洋一郎の父は、七十歳を過ぎても働いていた。年金(99回)もあるようだが、今の稼ぎが生活の主なものだったろう。休日には、好きな映画をDVDで楽しみ、近所を散歩し、電車で外出もしていたようだ。持っていた本やCDからは若い頃から好みが変わっていないことも想像できる。ということは、洋一郎の思い出の中の父は、ビートルズを聴くような人だったことになる。
 和泉台ハイツ205号室からは、平凡で、つましく、貧しいながら静かに暮らしていた老人の暮らししか見えてこない。若い頃に妻に愛想をつかされ、親類からも嫌われ、孤独に過ごした老人の荒んだ様子は見えてこない。


 洋一郎が、心の底で何を期待しているかが、窺える。

 川端(大家)さんは、死んだ洋一郎の父がこういう暮らしをしていたことだけを見せたかったのであろうか?