新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第101回2018/9/13 朝日新聞

 これは珍しいことだと思う。独り暮らしの男性が几帳面に日常の家事をこなしている。
 洋一郎の父は、こういう生活の態度をどこで身に付けたのだろうか。
 父の暮らしぶりよりももっと珍しいことがある。それは、川端(大家)さんだ。アパートの大家というだけなのに、死んだ借家人の火葬や遺骨の面倒をみるだけでも良心的で珍しい人だ。さらに、死んだ人の部屋を遺族に見せるために、冷蔵庫の中を整理したり洗濯までしている。こんな例は、現実の社会では聞いたことがない。

 ギャンブル好きでお金にだらしなく、職を転々として、身内にさんざん迷惑をかけてきた挙句、遺骨すら引き取ってもらえなかったひとが、こんなふうに最晩年を送っていたというのが、どうにもピンとこない。

 主人公のこの思いは、読者の思いでもある。
 死んだ父の枕元の句集が、その謎をとくのであろうか?