新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第109回2018/9/21 朝日新聞

 石井信也の人物像として、今までは、金にだらしのないどうしようもない男という面が強調されていた。だから、洋一郎の母が離婚してさらに再婚したことによって、洋一郎も姉の宏子も安定した生活を送ることができたと受け取れる描き方だった。
 洋一郎が、片付け始めている遺品からは、家族と一緒の安定した生活を送ることのできない孤独な男というイメージが浮かんでくる。おそらく、離婚してもギャンブルから抜け出すことはできなかったと思う。ギャンブルのためなら、家族も顧みないのは確かだったろうが、だからといって、妻と我が子に愛情を持てないかというとそうでもないような気もする。
 洋一郎の父(石井信也)の晩年の十年間は、ギャンブルをしていた形跡はないが、それはこれから明らかになるのだろうか?

 もし、父が孤独好きのギャンブラーだったとしたら、洋一郎にもその血が流れているはずだ。洋一郎は、逆に安定した家庭生活と安定した職をなによりも大切にするおもしろみのない男として描かれているようだが、果たして、そうなのか?