新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第112回2018/9/24 朝日新聞

 父についての記憶がほとんどないと、洋一郎は言う。だが、こいのぼりを飾ってくれた日の父を覚えているのだから、父についての思い出がまったくないわけではない。また、別れた父がどこかで暮らしていることを思うはずだ。さらに、父を否定する言葉だが、姉からはたびたび父のことが話題にされていた。
 そういう状況なのに、実の父について今まで無関心だった。さらに、死んだ父の部屋を見て、意外な発見をし始めている。こうなってようやく、実の父のことを深く考え始めたようだ。
 実の父のことを考えるためには、姉に確かめなければならないこともあるはずだ。また、妻にも相談しなければならないことがあるはずだ。

 一人暮らしの父は、毎年毎年、自分の家族だった妻と子の誕生日を特別な日として迎え、それぞれの年齢を確かめるように書き込んでいた。この老いていく父の気持ちに、実の父に無関心だった洋一郎の気持ちよりも私には共感できる。