新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第116回2018/9/28 朝日新聞

 洋一郎の父は、一人で暮らして一人で死んでいったので、親(洋一郎にとっては祖父母)と一緒に暮らしたのは、結婚する前だけだったろう。
 洋一郎自身も、独り立ちしてからは、母と義父とは別々の生活だった。洋一郎は、血の繋がった祖父母とも義理の祖父母とも深い縁はなさそうだ。
 これは、奇妙なことだ。
 誰のことと限定しなくても、人が、自分の祖父母と親のことに無関心になり、さらには、その死をまったくの他人事と感じる。洋一郎と姉宏子の今は、そういう状態だ。
 実の父の死になんの感情も持てなかった洋一郎が、わずかに感じている。死んだ父の部屋の冷蔵庫の中のそうめんと冷や麦を見て、さらにその冷や麦を茹でながら「しんみり」したと。