新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第128回2018/10/11 朝日新聞

 「親孝行」、私は言わないし、私の周囲で聞かなくなった言葉だ。死んだ親への感謝、死んだ親の思い出、私の周囲では話題にならない。さすがに、親の葬儀や墓参りでは親類と家族の間で、死者の生前の事柄が話題になる。
 親が高齢で亡くなると、こういう雰囲気になるのは、私だけではあるまい。その代わり、高齢の親の介護と高齢で亡くなった親の家の処分に、苦労する話題には事欠かない。
 こんなことで、いいのだろうか。いいわけはないのだが‥‥