新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第130回2018/10/13 朝日新聞

 死んだ父が家族を捨てたことをどう思っていたのだろうか?この疑問に洋一郎がはじめて触れたように感じる。
 「まちの小さな図書館」について書かれている。「和泉台団地」のような団地は、夫婦と子どもだけが住むための住居だった。団地が盛んに造られたころは、そんなことは意識しなかったが、三世代や大人数の家族が暮らすことを拒否した住まいだった。そこでは、世代間の交流も隣近所の交流も薄いものになるしかなかった。
 団地の住人が高齢化して、居住者の世代交代が行われず、だんだんに団地全体が寂れていく。そうなってはじめて、地域での人と人の交流の重要さがわかってきたのだろう。
 この小説の主人公洋一郎は、我が子に対しても、我が親に対しても、何というか、平板な感情しかもっていない。
 それと対称的なのが大家さんの川端久子であり、道明和尚だろう。

 私は、このどちらに近いかというと、洋一郎に近い。

 TVドキュメンタリー『グレートトラバース3』で、アドベチャーレーサー田中陽希が山伏の修行を体験する場面があった。山伏の指導者が、大声で詰問していた。「親孝行するか。ご先祖様を大切にするか。墓参りを欠かさないか。」
 こういう教えは、私の子どもの頃は、理屈ではなく、一般的な教えとして伝わっていた。そして、いつからか、見事にこういう教えは、消滅してしまった。