新聞連載小説『ひこばえ』重松 清・作 川上和生・画 朝日新聞 第五章 息子、祖父になる あらすじ 

 洋一郎は、大家さんに勧められるまま父の部屋へ通って、遺品整理を時間をかけてやり続けている。父が食べていた物、父が着ていた服、父が読んでいた本などが分かってくる。のこされた本の中では、『原爆句集』と『尾崎放哉全句集』が洋一郎の目を引く。父は、尾崎放哉の作品を特に熱心に読んでいたことが分かる。
 職場にいても、亡き父のことを考えながらも、初孫の誕生を心待ちにしている洋一郎に、いよいよ孫が生まれそうだという電話が妻から入る。
 洋一郎が出産に立ち会うのは妻と娘から断わられたが、二〇一八年五月五日、美菜は男の子を無事出産した。産院で孫を抱いた洋一郎は、赤ん坊が小さくて、やわらかくて、熱いことに驚き、体は軽いのに、重さを感じる。
 初孫の顔を見て、家に戻る洋一郎が寄ったのは父の遺骨を預けてある照雲寺だった。住職の道明和尚は、洋一郎が再び来るだろうことがわかっていたと言う。洋一郎が初孫の誕生を和尚に告げると、和尚は父の遺骨の前にビールとグラス二つを用意してくれた。洋一郎は、グラスの一つを遺骨の前に置き、自分はもう一つのグラスで飲み始める。ビールを飲みながら、洋一郎は、初孫が生まれたこと、洋一郎の家族のこと、母と姉のこと、それらを、父の遺骨へ向かって語りかけた。