新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第138回2018/10/21 朝日新聞

 洋一郎の父への思いは、複雑だ。

「ひどい父親だったんですよ」

 これは、姉の気持ちと重なる。また、この感じ方は父について周囲から聞かされていたことでもある。

 私自身の記憶にはない。けれど、そこまで言わなくてはいけないんだ、と自分を奮い立たせて続けた。

 この表現が、洋一郎の立場をよく表している。父を非難する材料の記憶は、自分にはない。しかし、父は悪く言われて当然のことをした。こういうことなのだろう。

 そして、最晩年の父が自分たち姉弟をどう思っていたか、の材料がはじめて出て来た。少なくとも、父は、幼かった姉弟を思い出すのが辛かったのだ。