新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第140回2018/10/23 朝日新聞

 姉には、洋一郎に話したことのない父についての記憶があると思う。

 姉は昔、よく私に言っていた。
 「洋ちゃんはずるいよ」
 なにが──?
 「あのひとのこと、消したよね。すごいと思う、皮肉抜きでうらやましい」(第7回)

 
姉は、亡き父が最晩年にカロリーヌの本を読んでいた、と聞いて、父についての感じ方を変えるどころか、ますます嫌悪感を強めている。