新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第151回2018/11/4 朝日新聞

 私は高層マンションと聞くと、それが普通のものであれ、高齢者向きであれ、自分には縁のない住居だと感じてしまう。介護付き高齢者施設に縁がないわけでなく、今後の状況によっては私にとっても有料老人ホームは選択肢の一つだ。でも、入居一時金が七千万円もする施設には入れるわけがない。
 後藤さん本人が、現在は古くなったごく普通の家か、あるいは和泉台団地のような団地に住んでいるとしたら、ハーヴェスト多摩は今までの経験にない暮らしの場だ。旅行のときのホテルや、治療のための入院の病院なら、最新の施設設備のある方がいい。しかし、そこで死ぬまで暮らすとなると、今まで暮らし慣れた環境に近い方がいい、と感じてしまう。
 後藤さんは、単に老人ホーム入居に気が進まないだけでなく、ハーヴェスト多摩が立派過ぎることに「おどおどした様子」を示しているのではあるまいか?