新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第158回2018/11/10 朝日新聞

 
私は、文章を書くことは好きだが、自分史を書きたい気持ちにはならないので、自分史を作りたい人の気持ちがわからない。わからないなりに考えてみた。
 自分史を書くというのは、自分の生涯を綴ったものを多くの人に読んでもらいたいからであろう。自分史を書くことに興味を持つのは、必ずしも成功した人や業績の上がった人、いわゆる勝ち組の人ばかりではないと思う。負け組には負け組の自分の生涯を書き残したいという気持ちがあるはずだ。
 成功した人も、成功しなかったと世間からみなされた人も、自分の生涯に誇りや愛着を感じた人が自分史への意欲を持つのではないか、と思う。
 こう考えると、私は、自分の生涯に誇りも愛着もないということになるのだが‥‥