新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第172回2018/11/25 朝日新聞

 西条さんは、父(石井信也)の考え方に特別な興味を持ったと思っていたら、そうでもなさそうだ。家族の死の経験がなく、自分史の取材もはじめてなのだから、父の考え方が一般の考え方とは違うかどうかさえわからないと思う。これでは、父の遺骨に線香を上げたいという気持ちも故人への敬意などとは違うものだと思う。

父は相談会の日──人生を閉じてしまう二週間足らず前に、孫のような年恰好の西条さんと向き合って、説明を聞き、また自分の話を聞いてもらっていたのだ。もしかしたらそれが、若い人と言葉を交わした最後だったのかもしれない。(第169回)

 
父(石井信也)に関係のある人として、奇妙な人(西条さん)が登場したものだ。