新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第177回2018/11/30 朝日新聞

 長年同じ職場で過ごし、趣味も合い、私的な付き合いが続いた人が亡くなったと聞いたならば、弔問に行くに違いない。だが、葬儀も過ぎ、ましてやその人の家族とは面識がまったくないとしたら、私なら香典や供物は送るとしても線香を上げに行くかどうかためらう。ましてや、亡くなった人とその家族に複雑な事情がありそうだと察したら、出かけて行って線香を上げることはしない。
 神田さんと西条さんは、まだ洋一郎と父の事情を詳しくは知らないのであろうか。それとも、そういう事情があっても、どうしても線香を上げたい、つまりノブさんの死を悼む気持ちが強いのであろうか。


父の負い目がわかる、ような気がする──からこそ、わかってはいけないんじゃないか、とも思うのだ。

 洋一郎は、父がどんな気持ちで自分と姉のことを思い出していた(和泉台文庫での父の行動)かを思う時、父を非難する気持ちになっていたと感じる。この場面では、父を非難する気持ちなのか、または父の気持ちが伝わってくるということなのか、まだわからない。