新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第178回2018/12/1 朝日新聞

 今の洋一郎の位置が不思議だと改めて思う。
 洋一郎は、父の死を知らされるまでは、父のことに何の興味も持たなかった。これは、不思議と言えば不思議だ。いや不自然だ。成長過程のどこかで、父のことが気になる時期がある方が自然だと思う。
 父の死を知らされ、遺品整理を始めてから父のことが急に気になり出した。だが、母や姉に父のことを聞こうとはしない。いや、聞きたいのだができないのだ。
 やがて、次々と父を知る人が現れる。父を知る人たちからの父についてのエピソードは、どれも洋一郎が僅かに持っている父の像と一致しないものばかりだ。
 別れたとはいえ、家族は別れてからの父のことを知らないし、知ろうとしない。それに反して何人もの他人は父のことに関心を持ち続けている。洋一郎は、父に近づこうと家族と、父に親しく近づいた他人との中間の位置にいるようだ。