新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第182回2018/12/6 朝日新聞

 洋一郎の「早くこの場から立ち去らせてほしい」という思いは、よくわかる。
 一方で、神田さんのような人にも親近感をもつ。私が経験した過去の通夜や葬儀の場では、こういう言動をとる人は珍しくなかった。
 過去の日本の社会では、子は親の死を悲しみ、その悲しみを周囲の人々の前でも表現した。親子のそれまでのいろいろな経緯は、親の死によってまるで清算されたかのように、ただただ死を悲しみ惜しむことが子の情であり、正しい行為とされていたと思う。
 真知子さんや陽菜さんは、こういう場も神田さんのような言動にもまったく経験がないだろう。ひょっとすると、洋一郎にとっても経験のないことなのかもしれない。