新聞連載小説『ひこばえ』重松 清・作 川上和生・画 朝日新聞 七章 父の最後の夢 あらすじ

 多摩ハーヴェストに、新しく入居する後藤さんが事前に挨拶に来た。後藤さんは、費用を息子が出すし、条件のよい部屋へ入ることになっている恵まれた入居者だ。だが、本人は入居に気乗りがしない様子だった。
 新しい入居者のことを心配している洋一郎の携帯に着信があった。携帯は父の残したものであり、電話をかけてきたのは、西条真知子さんという自分史の編集・ライターをする人だった。
 事情が呑み込めない洋一郎は、この西条さんに会うことにした。そして、西条さんから、洋一郎は父の最後の夢を聞かされることになった。
 父の最後の夢とは、自分史をつくることだった。しかも、その自分史への父の要望が変わっていた。つくるのは一冊だけで、その一冊を団地の図書館に置くと言う。さらに、父は、その自分史を、ライターである西条さん一人だけが読んでくれればそれでよいと言ったというのだ。
 洋一郎は、父の自分史のことはこれ以上は進められないと断るが、西条さんは諦めない。西条さんとの押し問答をしているさなか、また、父の携帯に着信がある。
 今度の電話の相手は、神田弘之さんという人で、父の古くからの友人だと言う。この神田さんは、父のことを「ノブさん」と呼び、流しのトラックドライバーをしている人だった。「ノブさん」の死を、洋一郎から知らされると、神田さんはせめて遺骨に線香を上げたいと言う。その話を西条さんに告げると西条さんもまた父の遺骨に線香を上げたいと言い出した。洋一郎は、この二人の申し出を断るわけにいかなかった。