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 重松清作『ひこばえ』は、家族の在りようを描いていると感じます。
 家族というと何よりも、血のつながりが基本です。血のつながりこそが、親子の関係です。
 夫婦という他人同士のつながりも、子ができて、妻と夫が、父と母になり、より強い関係へと変化する、ととらえるのが世間全般の考えでした。
 ところが、主人公の洋一郎は、血のつながった父への感情がまったくわきません。その意味では、親子の情を感じない人です。
 洋一郎には、子がいて、さらに、孫が誕生しました。孫の誕生によって、祖父と孫の情を感じています。しかし、二人の子どもを育てる中で、親子の情を感じていたか、というと、疑問です。少なくとも、昔のような親子関係、そして、血のつながりを大切にする家族観を、洋一郎がもっているとは思えません。 
 昔は、親子の情が濃密にあったのに、現代ではそれが薄れてしまったというならば、分かりやすいと思います。
 この小説では、そうは描かれていません。
 川端さんと神田さんは、昔のままの親子の情を肯定する登場人物のようです。一方、真知子さんは、年齢からしても、旧来の親子の情を持ち合わせていない登場人物ですが、父のことを知ろうとしない洋一郎を否定的にとらえています。
 親子は互いを無条件に大切な存在、と考えている人と、血がつながっていることだけにとらわれない人とに、はさまれているかっこうの主人公を、今までのこの作品の展開から感じます。
 このどっちつかずの主人公洋一郎に、どんな出来事が待ち受けているのか、そして、洋一郎自身は、自分の家族へのかかわりを変えるのか、その辺りが、本年の展開の楽しみです。