新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第217回2019/1/11 朝日新聞

 人と交流する場合に、相手から迷惑をまったくかけられないということはない。
 親切、好意、利益、称賛、尊敬、相手に、そういうものだけを求めて、他の人と人間関係をつくりたい人がいたとしたら、その当人ほど、嫌な人はいないと思う。
 相手の嫌な面を許容し、それを上回るよい面を見つけることが、人間関係をつくることにつながると思う。
 理屈でいうのは、簡単だが、それを実行するのは難しい。
 神田さんは、ノブさんに何度も借金を踏み倒されたと思う。それなのに、そういう金にだらしのないところを上回るよいところを、ノブさんに見つけていたのだろう、と感じる。