新聞連載小説『ひこばえ』重松 清・作 川上和生・画 朝日新聞 第九章 トラブルメーカー あらすじ

 後藤さんが、ハーヴェスト多摩に入居して二週間が経った。
 後藤さんのファースト・インプレッションは非常に悪い。同じ館の入居者からは、後藤さんが館内のゴミ出しのルールを守らず、注意をしてもすぐに守れなくなると苦情が出る。
 施設のスタッフからは、後藤さんを生理的に受け付けないという声があがる。多くのスタッフは、後藤さんから、ひどい態度を取られるとか失礼なことを言われるというのでなく、むしろ逆に励まされたり慰められたり同情されたりするが、言われた方は、その言葉のいちいちに神経を逆撫でされると、施設長の洋一郎に報告があった。
 その後藤さんが、食堂で飲み過ぎて酔い、相手をしてくれていた入居者を辟易させ、さらに、食堂中の入居者に、自分で買い込んであった酎ハイを持って来て振舞おうとした。これで、その時に食堂にいた人全員からヒンシュクをかってしまった。この大騒ぎの時は、洋一郎は、施設にはいず、副施設長が事を収めてくれた。

 洋一郎に、西条真知子さんから、今、神田さんと一緒に居酒屋にいるという連絡が入る。洋一郎は、その居酒屋に向かい、二人と会う。
 父の携帯に登録してある連絡先の約半数の番号に、真知子さんは父の携帯から電話をかけてみた。その結果は、多くは着信拒否であり、電話に出た人も、喧嘩腰の返事だったりし、父が死んだことを伝えても、お悔やみの言葉など全くなかった。
 一方、同席している神田さんは、父の遺骨をトラックの仮眠スペースに置いて、函館から室蘭、苫小牧を回ってきた、と話した。さらに、神田さんの口から、父がよい評判ばかりの人ではなかったという話が出てきた。どうやら、神田さんも父へ金を貸して踏み倒されたことがあったようだ。しかし、神田さんは、そういうことがあっても、父のことを友だちだったと今でも思っている。
 話の終わりに、神田さんは、洋一郎に、「どんな親だろうと‥‥親は、親だ。」と静かに言った。