新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第264回2019/2/28 朝日新聞

 法事は和やかな様子になってきた。
 神田さんの言ったことを整理してみる。
①航太がノブさんのことを何も知らなければ、孫とはいえない。息子の息子でしかない。
②ひこばえは、木の切り株から若い芽が生えてくること(航太の発言)。萌芽更新とは、質のいい丸太を切り出したり、森を守ったりするために、意識的にひこばえをだすこと。萌芽更新は、一本の古い木が切り倒されることで、新しい命が生まれて、森の世代が先に進むことになる。でも、幹を切られた古い木は、生まれ変わった森を見ることはできない。
③実は、ノブさんから、娘と息子がいるということを聞いていた。そして、娘や息子には会えない(あわせる顔がない)が、孫には会いたい、とノブさんが言っていた。
④航太に向かって、次のように言う。ノブさんのことを知りたいと思うなら、その気持ちを込めて、ノブさんに焼香してやってくれ、「あなたの人生を知りたい」、と願いながらお骨に手を合わせてやってくれ。そうすれば、あんちゃんは、正真正銘ノブさんの孫になる。この人のことを知りたいと思うのが、人と人とがつながる第一歩だから。
⑤ノブさんは、自分からは話せなくても、訊かれたら打ち明けたいことがあったのかもなあ。おれは、ノブさんと長年付き合ってきたが、ノブさんの人生や胸の内にどこまで関心があったか、よくわからない。最近、街を一人で歩いている老人を見かけると、このじいさんやばあさんは誰かに関心を寄せてもらっているのだろうか、と思う。

 この好きになれない登場人物は、多くのことを言っている。