新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第269回2019/3/6 朝日新聞

 石井信也は、洋一郎の近所に住んでいた。洋一郎が、父と同じ電車に乗っていたことがあるのかもしれないと思ったほどだった。
 もしも、父が生きていると仮定して、その場合に可能性のあることを挙げてみる。
①洋一郎と姉に会いたいと言ってくる。
②洋一郎の子、姉の子、孫に会いたいと言ってくる。
③別れた妻、洋一郎の母に会いたいと言ってくる。
④より高齢になり、介護がいるようになると、洋一郎を頼りにしてくる。
⑤本人は元の家族には一切会いたいとは言わないが、より高齢になり、介護なしには生活できなくなり、第三者から、父の援助と介護について洋一郎に連絡がくる。
 石井信也が、昔の自分の行いを謝り、金のトラブルを起こさないとしても、こういう場合のことを想像すると、想像するだけで厄介なことだと感じる。

 父は既に死んでいる。けれど、遺骨のことだけで十分悩ましい。洋一郎の「面倒なことになったあ」という気持ちがわかる。