新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第328回2019/5/5 朝日新聞

 
あのシェアハウスはよかった。いろいろな国の若者と八十代の小雪さんが一つ屋根の下で暮らしているというのが、とにかくいい。小雪さんは、彼らが一丁前のおとなになるのを見届けることはできないだろう。けれど、彼らは小雪さんと暮らした日々を決して忘れはしないはずだ。おとなになった彼らが、もっと若い世代に「学生時代にシェアハウスに住んでたとき、小雪さんっていう豪快なばあちゃんが同じ家にいてさ……」と語っていけば、小雪さんの存在は未来へと受け継がれていく。

 
ある人の人生が、後の人に受け継がれていく。このことの価値は、誰しも認めるであろう。
 だが、ごく普通の生き方をした人の人生が、誰の心にどのように受け継がれていくか、これは難しい。佐山夫妻と、小雪さんは、自分の生き方がいわば他人の中に受け継がれていく実感を得ていると感じる。