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新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 の感想と、読んだ本の感想を更新しています。

カテゴリ: 重松清作 連載小説『ひこばえ』の感想

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第283回2019/3/20 朝日新聞

 石井信也と洋一郎と航太を結ぶ糸が見えてきた。
 洋一郎も航太も金にだらしのないところやギャンブル好きのところはない。だから、この祖父、息子、孫に血のつながりを見つけられなかった。
 航太は職業柄からも文学好きがはっきりしている。洋一郎がすこやか館の図書室を見て回る様子からは、本への愛着を持っていることが感じられる。
 この三代を結ぶものは、本が好きだというところだ。

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第282回2019/3/19 朝日新聞
 
 真知子さんが話した小雪さんと父が別れた経緯を、航太は聞いていない。だから、こんなに素直に「おじいさん」に感情移入できるのだ。でも、いずれは、航太も「おじいさん」の困った一面を知らされることになるだろう。その時に、航太はどう反応するのだろう。
 一方、洋一郎は、父が金銭にだらしがなかったことを克明に知らされた。それでも、生きていた父の心情に共感している。
 この父子、洋一郎と航太の対比に興味をひかれる。

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第281回2019/3/18 朝日新聞

 死んだ人のことをどうとらえようと、それは生きている者の勝手なのだ。改めて思うのは、死者は肯定も否定もできないということだ。
 父との交流を懐かしみ、父の死を悲しんでくれるのは、洋一郎にとってありがたいことに違いない。しかし、真知子さんと神田さんが言っていることは、身勝手が過ぎると感じる。
 興味だけで、死者のことを詮索しているし、遺族が決めるべきことへ他人が口出ししている。今回の真知子さんと神田さんの言い分には、腹が立つ。また、航太の言っていることも軽はずみだと思う。

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第280回2019/3/17 朝日新聞

 高齢者向きのいろいろな講座や教室などに魅力を感じない。子どもの習い事と同じように、させられている感じが強いのと、その内容に限界がはっきりしているからだと思う。でも、それは講座や教室のせいではなくて、受講する方の意識の問題なのだろう。暇つぶしや、趣味を広げるためにするのではなく、自分のやりたいことをやる気持ちがないと、何をやっても本当のおもしろさを味わえないと思う。
 洋一郎は、入居者のためを思って、講座を準備していたが、私が入居者であれば、心から楽しめるものはないと感じる。

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第279回2019/3/17 朝日新聞

 後藤さんのやったことは、確かに他の入居者とスタッフにとっては困ることだが、この程度で、「退居」させられることになるのか?そうだとすると、入居者にとって、ハーヴェスト多摩はかなり息苦しい終の棲家になりそうだ。
 現実の有料老人ホームもこうなのだろうか?

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第278回2019/3/15 朝日新聞

 自分の息子が、高級な高齢者向けマンションの費用を出してくれて、なんの心配も苦労もなく死ぬまで、この施設にいることができる。恵まれた晩年の過ごし方にまちがいない。でも、自分が入りたくて、ここに来たわけではない。妻が死んでから、ゴミの片付けさえできなくなり、息子に叱られて、息子の言いなりになるしかなくて、この施設に来たのだ。
 ここは、設備は立派だが、なんだかくつろげないし、他の住人には引け目を感じてしまう。本心は、妻と長年過ごした家で、気楽に暮らしていたかった。
 後藤さんは、こんな気持ちなのではないか。
 後藤さんのそういう気持ちを察することができるので、洋一郎は、後藤さんのことを型通りに処理できないのだろう。さらに、後藤さんと実の父とを重ね合わせて見てしまうのではないかと思う。
 洋一郎は、いずれ息子の将也さんと話ができると思うが、その話の中では、息子側から見た父子関係が見えてくると思う。

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第267回2019/3/14 朝日新聞

①一人息子を亡くして、五十歳台なのに高齢者施設に入りたい夫婦  佐山夫妻
②一緒に暮らす家族がいず、独り暮らしで死んでいった男性  洋一郎の実の父石井信也
③妻を亡くして独り暮らしになったが、息子に高齢者施設に入れられた男性  後藤さん
④内縁の夫と別れ、シェアーハウスに住む女性  小雪さん
⑤再婚相手の子どもと同居する女性  洋一郎の母  
 五通りの晩年の過ごし方が出てきた。

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第276回2019/3/13 朝日新聞

 神田さんが知っていたのは、父の一面だけだった。父のことについて、もっと知るためには小雪さんに話を聞くしか方法がない。洋一郎は、こう思ったのだろう。また、小雪さんがシェアハウスで老後を送っていることにも洋一郎は、興味をもっている。
 洋一郎の母より先に小雪さんに遺骨へお参りをさせるのは、筋違いだ。神田さんはこう言うのではないか。

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第275回2019/3/12 朝日新聞

 洋一郎以外の人は、石井信也の我が子への思いを聞いてしんみりしているが、洋一郎はどうであろう。
私が洋一郎の立場なら、父の気持ちをうれしいとか、生きているうちに父と会えばよかったは素直には思えない。
 父が、別れた家族に会いたかったという気持ちを誰にも言わず、会いたいが会わせる顔がないし、会うべきではないと思っていたとする。私なら、その方が、気持ちが軽くなると感じる。
 死んだ人の言葉や行動をどう受け止めるかは、生きている者の感じ方次第だと思う。死者は、どう受け止められても、それを肯定も否定もできない。
 
 「遺された者に迷惑をかけないように」というフレーズを、最近は盛んに聞くが、私は、この言葉を信じられない。例えば、中途半端な額の財産を遺したがゆえに、遺族がいがみあいになるという例は多い。 
 死ぬときは、何も遺さない、何の遺言もない、これが理想だ。

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第274回2019/3/11 朝日新聞

 はた目には、円満そうで長年連れ添った夫婦なのだが、夫が亡くなると、妻の方はせいせいした顔になるというのは、よく聞く話だ。その逆もあるのだろう。
 若い頃は人気があり、中高年になってからは人望があったとされる人が、実は、いつも表に出さない不満や憎しみをもって生涯を送ったという逸話を聞いたことがある。
 男と女の関係は、わからぬものだ。
 人の本質は、わからぬものだ。

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