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新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 の感想と、読んだ本の感想を更新しています。

カテゴリ: 重松清作 連載小説『ひこばえ』の感想

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第450~460回2019/9/8~9/19 朝日新聞

 小雪さんは、すっかり弱ってもその気風の良さを失っていない。そして、ノブさんの遺骨に丁寧に接している。見上げた人生の終末期を過ごしていると感じる。
 更に、彼女の最期の時間を共に過ごす人たちは、温かく、しかも若い人が多い。羨ましい限りだ。

 しかし、相変わらず、私には納得ができない。

 私は、父の息子──ただそれだけなのだ。

 洋一郎のこのすっきりとした結論を聞くと、ますます小雪さんのことが納得いかない。小雪さんも神田さんも、自分の子に、洋一郎が得たこの結論を味わわせることがない。それどころか、自ら、子を持つことを拒否して来たと思う。また、ノブさんこと洋一郎の実父は、家族を得たが、それを捨ててしまった。

 そういう人たちに、「ひこばえ」の大切さを教えられた、と言われても、なんとも納得できない。
 小説の中だと言われても‥‥

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第432~449回2019/8/21~9/7 朝日新聞

 この小説の山場の章だ。展開は速いし、楽しめた。
 後藤さん父子のことが描かれている間、「では、親父と息子の良い関係とは?」と考えていたが、答えは簡単そうで見つからなかった。それが、この章で示されていた。親父が息子を叱る、この行為と心情が、良き父子関係の土台だったのだ。
 なるほど、忘れていた視点だった。


 その瞬間、私の脳裏に一人の男性の顔が不意に、くっきりと浮かんだ。

 三十代半ばの――父だ。

 腕組みをして、怖い顔で、まだ小学生になったかどうかの私をにらんでいた。

 イタズラだろうか。嘘(うそ)でもついてしまったのか。とにかく父に叱られていた。

 私は謝った。べそをかきながら、「ごめんなさい、もうしません」と言った。

 すると、父は「よし」と言って、笑顔になった。許してもらって涙が止まらなくなった私の頭を手で乱暴に撫(な)でながら「いい子だ、洋一郎、おまえはいい子だ」とうれしそうに言ってくれた。

 五十五歳の私が、やっと父に会えた。(436回)

 この感覚の大切さを、忘れていた。その意味でも、後藤さんと将也さんが会う場面を美しいと感じた。
 しかし、納得いかないものも残る。立派なことを言っている神田さんは、この父子関係の更に土台となるべき家族を持つことを拒否していた人だ。また、今日の後藤さん父子の再会のきっかけとなった真知子さん本人の家族関係が全く感じられない。この辺は、物足りない。

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第417~431回2019/8/5~8/20 朝日新聞

 この小説を読み始めて以来、初めて主人公の考えに共感できた。

 きれいに老いていくことは楽なことではない。
 悠々自適の老後を送れても、生きがいを失っては幸せではない。

 なるほど、その通りなのだ。言われてみると当然のことだが、このことを見失っていると思う。だから、高齢者対策の制度設計や豊かな老後のための資産の額ばかりが注目されるのだ。

 
 ハーヴェスト多摩にいた後藤さんよりも、和泉台ハイツのノブさんの方が幸せだったと感じていた。その理由が理解できた。

 
 とらえどころのない登場人物と感じていた真知子さん、現代離れした神田さん、それに川端さんが、ピッタと役柄にはまり出した。

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第414~416回2019/8/2~8/5朝日新聞

 真知子さんも川端さんも、イメージが変化してきた。
 真知子さんは、どことなく胡散臭い編集者から老人との共同作業である自分史作りを心から楽しむ編集者へと、イメージが変わりそうだ。
 川端さんは、善意を押し付けて来るおせっかいな大家さんから、孤独な老人の気持ちを理解し独居老人との接点を大切にする大家さんへと変化してきた。
 神田さんも、ノブさんの唯一の友人だった変わり者とは違った面を見せるのだろう。
 そして、後藤さんの件を通して、洋一郎自身の心と行動が大きく変わってきた。

 はっきりしているのは、以前の洋一郎のような考え方で親の世代と向き合うのは、現代の現実を後追いで認めるだけで、何の問題解決にもならないということだと思う。

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第413回2019/8/1朝日新聞

 412回から章が新しくなった。と言うことは、後藤さんの息子のスキャンダルの件は、これ以上には発展しないということかもしれない。
 西条真知子さんという人物は、好感の持てる人と描かれていないと思う。でも、けっこう重要な役回りを演じている。洋一郎にとって、自分の職業の内容が知れてしまうような依頼を真知子さんにするということは、真知子さんのどこかに信頼に足るものを感じているからだろう。読者としては、この身勝手そうな若い女性のどこが信頼できるのか、よく分からない。

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第405~412回2019/7/24~7/31 朝日新聞

 尊敬し、逆に反発し、いつしか疎遠になり、互いに年を取ると、介護する方と介護される方になる父子の関係。
 洋一郎の場合は、音信不通になっていたという特殊事情はあるのだが、根本的には煩わしい関係でしかなかった父との関係がどんどんと変わる。もしも、父の遺品整理をしていなければ、後藤さんの扱いも施設長としてのマニュアル通りに処理されたであろう。後藤さんは、息子のスキャンダルが起きる前に、施設から退去させられるか、またはスキャンダル後であれば、息子の会社の指図通りに施設から出ていたであろう。
 そうはならなかった。洋一郎は一人の男として、父親世代の一人の老人のことを考えている。そして、第三者としてスキャンダルをおもしろがるだけではない他人(川端さんや、神田さん)が、動き始めている。

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第404回2019/7/23 朝日新聞

 父の遺骨の前にいると、そこにいる人の気持ちが落ち着くようだ。荒んでいた後藤さん、息子のスキャンダルで追い込まれているに違いない後藤さんが、今までにない良い雰囲気の話しぶりだ。それは、この部屋のせいなのか、それとも洋一郎の打ち明け話のせいなのか。恐らく、その両方だろう。
 設備が整い、見晴らしの素晴らしい高層の施設の部屋よりもこのアパートの部屋の雰囲気に、後藤さんがすっかり馴染んでいる。

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第403回2019/7/22 朝日新聞

 穏やかに微笑(ほほえ)んで、「部屋の掃除ができるのは、幸せな証拠です」と続けた。「反面教師の私が言うんですから、間違いありません」

 後藤さんの別の一面を見せられたようだ。確かに当たっている。特に独り暮らしの老人が、自分の住まいをこざっぱりさせておけるのは、その人に余裕と幸福感があるからだと思う。

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第399~402回2019/7/18~7/21 朝日新聞

 洋一郎に共感はできないが、ストーリーは奇想天外になってきた。おもしろいと言えばおもしろい。洋一郎は、今度は、神田さん(父の唯一の友人)から川端さん(父のアパートの大家)になった。
 だいたい川端さんという登場人物はなんなんだろう?他人に優しく他の人をなによりも大切にする人だとでも言うのだろうか?

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第392~398回2019/7/10~7/17 朝日新聞

 洋一郎に全く共感できない。後藤さんを気の毒に思うのは分かる。後藤さんの今後を心配するのも分かる。しかし、将也さんに腹を立てるのは何故か?洋一郎は、急に神田さんになったのか?

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