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新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 の感想と、読んだ本の感想を更新しています。

カテゴリ: 重松清作 連載小説『ひこばえ』の感想

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第273回2019/3/10 朝日新聞

 石井信也がここまでやっていたとすると、真知子さんが酔っぱらわなければ言えなかったのがわかる。 
 母が別れたのも、姉が憎むのも無理なかった。実の父はひどい男だった。やっていることは犯罪なのだが、相手が親類や友人やパートナーなので、訴えられなかっただけであろう。
 前回の感想で書いた、石井信也の二面はなぜなのだろう?また、彼は自分史にどんなことを残したかったのだろう?

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第272回2019/3/9 朝日新聞

 洋一郎の実の父石井信也のことが、少しずつ少しずつわかってくる。
 最晩年は、それまでの金のトラブルを起こす男という様子がまったくなかった。
 ところが、離婚してから和泉台ハイツに住み始めるまでのことが、神田さんの話と、西条レポートから断片的にわかってきた。
 離婚してからも、金のことで人に迷惑をかけ続けることが、変わらずにあったのが明らかになってきた。
 そうなると、最晩年の周囲の人から好かれる老人と、若い頃の親しくなった人みんなから嫌われる男との間の差があまりに大きい。
 この差はどこから生じたのか?

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第271回2019/3/8 朝日新聞

 神田と西条真知子、この二人の登場人物は妙だ。
 真知子さんのレポートなるものに、連載の回数を長くかけているが、調査をする動機も調査の結果をどうするかも、読者を納得させて次回を楽しみにさせるような要素に欠けていた。
 これだけ読者を待たせるには、読者をアッといわものが準備されているのであろう。
 私は、別れた妻、洋一郎の母と石井信也は、何回も会っていたというストーリーを予想したが、そんなことはなさそうだ。
 独り身の石井信也が、スナックに通っていたことだけを、真知子さんが話すのに、酒の力を借りなければならないとしたら、これも腑に落ちない。
 このスナックのママと父の関係が、読者を驚かせるようなものなのであろうか?

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第270回2019/3/7 朝日新聞

 友だちとしてノブさんのことを懐かしく思い出して、遺骨を借りて海を見に行くのは、神田さんの勝手だ。だが、別れた嫁さんに線香ぐらいあげてもらえ、遺骨を故郷の田舎に帰らせてやれ、などというのは、家族が考えることで、友だちがどうこういうことではない。
 父のことに関心をもち、その死を悼むのは大切なことだと思う。それと、父の死をどのようにとむらうかの行為とは違いがあると思う。
 神田さんは、肉親の死に対する心の持ち方と、慣習的な行為の在り方の双方が混然としている。
 これは、昔の家族の温かみであり、煩わしさでもあると感じる。

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第269回2019/3/6 朝日新聞

 石井信也は、洋一郎の近所に住んでいた。洋一郎が、父と同じ電車に乗っていたことがあるのかもしれないと思ったほどだった。
 もしも、父が生きていると仮定して、その場合に可能性のあることを挙げてみる。
①洋一郎と姉に会いたいと言ってくる。
②洋一郎の子、姉の子、孫に会いたいと言ってくる。
③別れた妻、洋一郎の母に会いたいと言ってくる。
④より高齢になり、介護がいるようになると、洋一郎を頼りにしてくる。
⑤本人は元の家族には一切会いたいとは言わないが、より高齢になり、介護なしには生活できなくなり、第三者から、父の援助と介護について洋一郎に連絡がくる。
 石井信也が、昔の自分の行いを謝り、金のトラブルを起こさないとしても、こういう場合のことを想像すると、想像するだけで厄介なことだと感じる。

 父は既に死んでいる。けれど、遺骨のことだけで十分悩ましい。洋一郎の「面倒なことになったあ」という気持ちがわかる。

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第268回2019/3/5 朝日新聞

 離婚するというのは、当人同士だけの問題に止まらないと思う。
 子がいれば、親の離婚は、その子の一生にかかわる行為だ。
 さらに、当人同士も、離婚後の二人の関係は、まったくなくなるものでもあるまい。特に、互いが高齢となり、自立した生活が困難になると、離婚相手であっても、縁のない人とは違う感情がわくのではないかと思う。
 社会に、高齢者のひとり暮らしが増えるのは、今まで経験のないことだと思う。それだけに、孤独死、ゴミ屋敷などの独居老人による近隣への迷惑、同居しない家族の介護負担、これ以外にもいろいろな影響が出ているのではないか、と思う。

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第267回2019/3/3 朝日新聞

 父の人生を知りたくないのか、と真知子さんも神田さんも何度か言っていた。真知子さんも神田さんも、父、石井信也とは他人だ。石井信也の人生の負の面が出てきても、真知子さんも神田さんも、さらに川端さんと田辺さん母子も、実際的な影響を受けることはない。
 だが、洋一郎と母と姉は、たとえ何十年も会っていなくとも、血のつながりはあるのだから、石井信也が他人に迷惑をかけていたとすると、その尻拭いや責任を負わされることがあり得る。
 それは、航太の場合もそうだろう。ある人の人生に関心をもつことと、血のつながりのある人の人生に関心をもつことは明らかに違う。
 父の負の面は、母にとっても子にとっても孫にとっても重いものになると思う。

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第266回2019/3/2 朝日新聞

 電話を切られるのではなく、借金を故人に代わって返済しろと要求されている。もしも、そういう類の困りごとなら、すぐに洋一郎に相談しそうだ。
 とことん酔っぱらうまで、言わなかったのは、電話の相手から堅く口止めされた内容か?もしも、そうだとするなら、石井信也と洋一郎にごく近い人物からの電話が予想される。

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第265回2019/3/1 朝日新聞

 西条真知子さんが、何か言い出すとしたら、父の携帯からかけた電話の反応が関係するのだろう。真知子さんは、携帯に登録されている番号の半数ほどに既に電話をしていた。その結果は散々で、着信拒否になっていたり、電話に出た場合もはじめから喧嘩腰のものだったりした。
 それは、石井信也が関係している人の多くに迷惑をかけていた結果なのであろう。
 そんな、冷たい返答しか返ってこなかったのに、残りの登録の番号に、電話をかけ続けたのは、洋一郎がそうしてくれ、と言ったことと、残りの登録されている人の中に女性の名があったことに、真知子さんは何かいい反応を期待した(第九章 トラブルメーカー 第九章 あらすじ)のだと思う。

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第264回2019/2/28 朝日新聞

 法事は和やかな様子になってきた。
 神田さんの言ったことを整理してみる。
①航太がノブさんのことを何も知らなければ、孫とはいえない。息子の息子でしかない。
②ひこばえは、木の切り株から若い芽が生えてくること(航太の発言)。萌芽更新とは、質のいい丸太を切り出したり、森を守ったりするために、意識的にひこばえをだすこと。萌芽更新は、一本の古い木が切り倒されることで、新しい命が生まれて、森の世代が先に進むことになる。でも、幹を切られた古い木は、生まれ変わった森を見ることはできない。
③実は、ノブさんから、娘と息子がいるということを聞いていた。そして、娘や息子には会えない(あわせる顔がない)が、孫には会いたい、とノブさんが言っていた。
④航太に向かって、次のように言う。ノブさんのことを知りたいと思うなら、その気持ちを込めて、ノブさんに焼香してやってくれ、「あなたの人生を知りたい」、と願いながらお骨に手を合わせてやってくれ。そうすれば、あんちゃんは、正真正銘ノブさんの孫になる。この人のことを知りたいと思うのが、人と人とがつながる第一歩だから。
⑤ノブさんは、自分からは話せなくても、訊かれたら打ち明けたいことがあったのかもなあ。おれは、ノブさんと長年付き合ってきたが、ノブさんの人生や胸の内にどこまで関心があったか、よくわからない。最近、街を一人で歩いている老人を見かけると、このじいさんやばあさんは誰かに関心を寄せてもらっているのだろうか、と思う。

 この好きになれない登場人物は、多くのことを言っている。

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