朝日新聞連載小説『春に散る』沢木耕太郎第150回2015/9/1

とても、とても、おいしいお米を送ってくださったこと

 テレビを見ていて不思議に思うことはたくさんある。不思議というよりは信じられないことと言った方がよい。その最たるものが、米や水を口に入れてすぐに、「おいしい!」と言うレポーターがいることだ。
 我が家では、もう何年も前から知り合いの農家が作り、そこで精米した米を食べ続けている。でも、違う米、ご飯を出されても、その時にすぐはわからない。水は、普段は浄水器を通した水道水を飲んでいる。ペットボトル入りの名水なるものを飲んでもすぐに違いはわからない。
 ご飯は、いつもと違う米が何食か続くと、あれっ違う、と気づく。
 私の味覚が鈍いのだろう。
 そう言えば、「佐瀬」が送っている米は、近所のスーパーで買ったものだったはずだ。

 「星」は、手紙の代筆をしてくれるようなしっかり者の女性と、元気に暮らしているのであればいいのだが…