朝日新聞連載小説『春に散る』沢木耕太郎第154回2015/9/5
ボクシングの世界チャンピオンが一人誕生するためには、世界中に無数の敗者がいなければならない。その敗者の中には1回も勝つことなく、ボクサーをやめた者もいる。だが、その中の何人かは勝ち続けて、ランキングの上位まで達した。
「広岡」は、野球ではプロでの活躍を見込まれ、プロのボクシングではチャンピオンに近づいていた。それだけの才能があり、努力もしたに違いない。しかし、いずれの場合もそこに到達できなかった敗者であった。
沢木耕太郎は、チャンピオンの物語ではなく、栄光を手にする資格がありながら、敗れた男の物語を書いていると感じる。
しかも、そういう男たちのその後が描かれている。
広岡がもういちど呼びかけると、不意に扉が開き、男が顔をのぞかせた。
「星」は、一瞬で「仁」だとわかった。しかし、「星」の方は、「男」と表現されている。40年経てば、変わるのは当然だ。「広岡仁」が昔と大きくは変わっていないと見えることは、すでに他の二人も言っていた。
ボクシングの世界チャンピオンが一人誕生するためには、世界中に無数の敗者がいなければならない。その敗者の中には1回も勝つことなく、ボクサーをやめた者もいる。だが、その中の何人かは勝ち続けて、ランキングの上位まで達した。
「広岡」は、野球ではプロでの活躍を見込まれ、プロのボクシングではチャンピオンに近づいていた。それだけの才能があり、努力もしたに違いない。しかし、いずれの場合もそこに到達できなかった敗者であった。
沢木耕太郎は、チャンピオンの物語ではなく、栄光を手にする資格がありながら、敗れた男の物語を書いていると感じる。
しかも、そういう男たちのその後が描かれている。
広岡がもういちど呼びかけると、不意に扉が開き、男が顔をのぞかせた。
「星」は、一瞬で「仁」だとわかった。しかし、「星」の方は、「男」と表現されている。40年経てば、変わるのは当然だ。「広岡仁」が昔と大きくは変わっていないと見えることは、すでに他の二人も言っていた。